りはひっそりと静まり返っている。其処へ、側の襖がすーっと音もなく開いて、眼のぎょろりとした壮年が、腹匐いになって覗き込んだ。暫くすると、その男はすっくと立上って、つかつかと而も爪先で歩み寄った。蚊帳をまくって中にはいると、袂から黒メリンスの兵児帯を取出した。老人は口をあんぐり打開き、横向きになって、酒臭い息を喘ぐように吐きながら、ぐっすり眠っていた。男はその後ろに忍び寄って、老人の首の下に帯の端を通し初めた。老人は一寸身動きをした。瞬間に、男は帯を通し終って、それでぐっと老人の首を締めつけながら、なお膝頭で老人の背中を後ろから押えつけた。首を縮め両肩を高く聳かし、両手にある限りの力を籠めて、そのまま蹲った。老人はぱっと足元で夜具を半分ばかり蹴飛したが、声も立てずにぐったりとなった。手足がびくびく震えだした。かと思うと止んだ。そしてまた震えだした。その震えが次第に弱く痙攣的になり、震えの間の時間が長くなり、最後にぴくりと一つ大きく震えて、もう動かなくなった。三分……五分……そして男は立ち上った。老人はぐたりと頭を落した。眼を見張り口をあんぐり開いていた。男はそれを一目見やって、顔をそむけ
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