げ跡と白っぽい斑点とが不審だった。警察の方で一応調べてみると、怪しい点が生じてきた。それで更に、法医学の高山博士に鑑定を依頼した。博士の検査に依って、白っぽい斑点は蚊の糞の跡であり、更に、その糞中には人間の白血球が多く存在し、板には人間の脂肪がしみ込んでることが、明かになった。それから板の出所を調べると、その板は或火災の場所から出たもので、晋作がはいってる家を三年前新築する時、大工が何かの都合でそのまま使ったものだった。更に不思議なことには、その板は焼けた家でも押入の張板に使われたものらしかった。なお調査してみると、その焼けた家の主人は、或る重大な犯罪で目下未決監にはいっていた。所が、その家が焼けた時老人が焼死して、その生命保険金一万円を主人は受取ったのだった。そこで、警察の眼には二重の疑問が映じた。火災の折に押入の板がどうして焼け残ったか? 押入の板に人間の白血球を含む蚊の糞と人間の脂肪とがどうしてそう多分に付着しているか? そういう疑問から、保険金一万円が鍵となって、或る犯罪事実の情景が浮び出て来た。
三年前の或る初夏の夜――
室の真中に、六十年配の老人が一人眠っていた。あた
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