清とを呼んだ。
「何でもなかったんだよ。押入の中の板が一枚壊れて、床下の風が吹き込んでいたので、変に気味が悪かったのさ。この通り繕ったから、もうこれから安心だ。」
 そして彼は押入の荷物を少しのけて、中井刑事が打付けた板をさし示した。が、清は腑に落ちぬような顔付をし、綾子は不審そうに眉根をしかめ、晋吉はふふんと空嘯いているので、そして、秋子は不安げな眼付で苦笑してるので、それが――何だか分らないが何かが、やはり変だった。その室に落付いて居られなかった。
 夜遅く便所へなんか行く時に、ひっそりした闇の中から、何かの眼付が覗いてるらしい気配に、ふと慴えることがあった。それはもはや、荒唐無稽な変化《へんげ》の類ではなかったが、あの押入に何かの因縁が……と思う、一種の宿命的な惑わしだった。
 新らしい家だけに、それがどうも不思議だった。
「この家は建ってまだ間もないらしいがね。」
「ええ、三年にきりならないんですって。」
 秋子はそう答えながら、良人の眼付のうちに、何か力となるべきものを探し求めた。そしてそれが見出せないと、しまいにはやはり移転を主張しだした。
「だってあの刑事との約束もあるし
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