廻って追っかけてきました。わたしもぐるぐる廻って逃げました。鬼ごっこのようでした。そして物に躓いて倒れて、つかまったかと思いましたら、火はもう消えておりました。」
岸本は楽しそうに笑いました。彼女は笑いはしませんでしたが、やはり楽しそうでした。
岸本は大陸の話をしました。おもに虫や動物のことを話しました。人間のことは殆んど彼女の興味を惹かないようでありました。
酒もあき、僅かな鮨をたべ、蚊帳の中に寝ました。
酔った岸本が記憶しています限りでは、彼女は殆んど性的衝動を示さず、何等の積極的態度にも出ませんでした。それと共に、全く羞恥の念もないかのようでした。謂わば、娼婦からその閨房の技巧を全く取り去ったような工合に、真白な体を彼に委ねました。或は彼女は酔いつぶれていたのでしょうか。
岸本がふと眼をさますと、彼女は背を向けて寝ていました。蚊帳越しの淡い光りに、彼はじっと、彼女の頸から肩のあたりの白い肉体を眺めました。カールを外巻きにした黒髪から、寝間着の襟のずり落ちてるところまで、その裸の肉体は、骨は軟骨でもあろうかと思われるまでに、ただ滑らかな曲線と凹凸を画いて、自然の重みに放置
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