あげましたが、正夫の云った意味が分ると、「いいえ、」と頭を振りました。そして、ふいに、ちらと光が眼に浮いてきました。涙ぐんだのでしょうか。下を向いてた正夫は、上目で、それを見てしまいました。
――なにか、心配なことがあるのだろう。
そう思うと、もう口が利けないんです。
駒井さんも黙っています。黙ったまま、お茶やお菓子をすすめてくれます。
正夫は次第に、不安とも不満ともつかない気持になって、投げだすように云いました。
「おじさんはどうしたんでしょう。わざわざ電話をくれといて……。」
「電話……あなたに……いつ……?」
「今朝《けさ》だって。中根のおばさんと、ほかの用かも知れないけれど、話をして、その時、お午《ひる》すぎには帰ってるから、ゆっくり遊びに来るようにって、僕にことづけがあったそうです。」
「そう。どうなすったんでしょうね。」
駒井さんも、なにか、芝田さんの帰りを待ってるようなんです。もう五時すぎになっています。駒井さんはしばらく考えていましたが、ふいに別なことを云いだしました。
「あなたは、何の花がいちばんお好きなの。」
だしぬけの問いなので、正夫はちょっと返事に困
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