としました。見ると、康平さんが来たのです。チビはひっこみ、正夫は座敷の方へ戻っていきました。急に寒くなったようです。もうずいぶん遅いのでしょう。
康平さんは、洋服をきています。眼には昂奮の色がただよっていますが、顔はなあんだという表情です。それを、芝田さんは迎えて、もうすっかり酔いに落着いた態度で、鷹揚に眼尻には笑みを浮べてるようです。
「まだ酒ですか。」と康平さんは別に不服でもなさそうに云いました。「だいぶ前、電話したら、まだ帰ってませんでしたね。どこをうろついてたんです。もう寝ようとしたが、眠れそうもない。やはり、今晩のうちに片附けたくなって飛んできたんだが、もし兄さんがいなかったら、一晩中でも坐りこむ覚悟でしたよ。」
「僕も、逢いたいと思ったんだが……。」
「そんなら、電話でもすればいいじゃありませんか。いろいろ、話したいことがあるんです。何かと、聞きこんだこともあるし……。兄さんの覚悟を聞いとかなくちゃならない。真剣な話ですよ。どこか、外に出ましょう。自動車は待たしてあるんです。」
云うだけ云って、康平さんは、どこかに電話をかけに立っていきました。戻ってくると、初めて気が
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