いて論じあっていたところなので、芝田さんが来たのも、その問題に関心をもってるからだと思われたようです。四方から、いろいろ意見を求められました。根本は営業部と製作部との勢力争いで、それが大体二派に別れ、販売網のことと製品技術のこととが表面の問題となってるのです。各自が胸に秘めてる二派対立のことは、芝田さんにはよく分らず、ただ質問がうるさくて、会社の立前からということで、いい加減あしらっていました。すると、わきの方で、奥さんの意見も聞いてみようよ、一見識ある奥さんだということだからと、聞えよがしに囁いてる声がしました。恐らく、過激な皮肉な社員なのでしょう。そして奥さんというのは、明かに駒井さんのことを揶揄したのです。いつぞや芝田さんが、雑誌の批評論文のことをきかれた時、あれには助手がいると云って、あけすけに駒井さんのことを話しました。それが社内にひろがり、悪意ある者は、そこに怪しい色合をつけたのです。
 駒井さんに対する揶揄の言葉を耳にしても、芝田さんは別に気にとめませんでしたが、他の人たちが気にとめて、議論は自然に終りました。そして芝田さんは、暫くして、またぶらりと会社を出ました。だが、
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