て、電話をかけましたが、更に要領を得ません。そこで芝田さんは、先方の家まで出かけて行きました。常見は鄭重にそして冷淡に、手紙と同じことを繰返すばかりです。それから話の合間に、さも内証事らしく声をひそめて、実は並河が、後妻にだが駒井さんをほしがっているし、この縁談をおまとめになりませんかと、そそのかします。この縁談がまとまれば、お貸ししてる金額くらい、いやそれ以上、並河に出させます。並河の執心は深いもので、既に昨晩、それとなく駒井さんに当ってみたらしいですよ。なんかと、薄ら笑いをしています。芝田さんは呆気にとられました。
芝田さんは呆気にとられて、それから途方にくれて、弟の康平さんの事務所をぼんやり訪ねていきました。康平さんは弁護士で、これまで何度か迷惑をかけてるのですが、またのこのこやっていったのです。そして、困ったことが出来たよと、でも呑気らしい調子で、常見とのことを話しました。
ところが、ここでもまた、芝田さんは呆気にとられました。康平さんは、一言も口を挾まずに、しまいまで黙って聞いていましたが、最後に、それは真実ですかと尋ねました。少しも嘘はないと芝田さんは答えました。それが
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