現在の家屋は、一番と二番と二重の負債担保物件になっています。二番担保の方は、金貸業者の常見からの三千円で、可なり悪質のものです。その延滞がちな利息を、駒井菊子さんが使者になって、時折届けてるうちに、先方では次第に元金返済の督促まできびしくなり、一応、ゆっくり逢って話をつけようということになりました。駒井さんにも立合って頂きたいとのことでした。そこで芝田さんは、駒井さんを連れて、さる料理屋に出かけました。先方からは常見と、やはり立合人として、常見の親戚にあたる者で、或る証券会社の社員をしてる、並河という男が来ました。話は至極穏かで、飲食の間にいろんな世間話が出て、芝田さんはいい気持そうに酔いました。それが昨日のことです。
「そんな時に酔うなんて、芝田さんらしくて、愉快じゃないか。」とチビは感心しています。
 ところが今朝早く、常見からの速達郵便が届いて、昨夜一晩寝て考えた上のことだが、期限はお待ちするけれど、ついては確実な保証人を一人たてて貰いたく、さもなくば止むを得ざる手続きを取ると、威嚇的な文句なのです。何しろ昨晩は酒の上のことで、はっきりした談合もしていないこととて、芝田さんは慌て
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