。」そう呟いて、うふふと含み笑いをしています。
ほんとに酔ってるのでしょうか。
その時、女中が、お召物がぬれていますからおかえなすっては、と注意をすると、芝田さんは返事はせず、でも素直に、次の室に立っていきました。
駒井さんはじっと、石のように坐ったきりです。
正夫は立上って、庭に出て、大きく息をしました。豪雨の後のまっ暗な空が、ひどく深々と思われます。
「正夫君、芝田さんは少しへんだろう。」
まっ暗な中から声がしました。チビの奴です。
「知らないよ。」と正夫は云いました。
「知らないというのは、知ってる証拠か。」
「ばか。」
「僕にもどうやら、手におえなくなってきた。すっかり見当ちがいだ。」
「いつもちがってるじゃないか。」
「そうでもないさ。隠しておいたが、どうだい、すっかり話してやろうか。」
正夫は返事をしませんでした。けれど、返事がないのは承諾のしるしでしょうか。正夫はそこの、形ばかりの粗末な亭のベンチに、腰をおろしました。
そしてチビが話した事柄は、ひどく複雑なようでもありまた簡単なようでもあって、正夫にはよく腑におちませんでしたが、要するに――
芝田さんの
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