、お嫁にやられるかも知れないわ。」
「お嫁にいってから奥さんになるんでしょう。」
そう正夫は皮肉に云いました。なにかしら不服なんです。
「いいえ、ちがうのよ。両方の話、別々なんです。別々の話よ。だから……。」
駒井さんはいろいろ話したいことがあるようです。それを、どう話してよいか分らないようです。そして正夫の肩を抱きしめる工合に、よりかかってきました。
正夫は急に、駒井さんの胸に顔を伏せました。
「あたし、どこにもいきたくないのよ。」
言葉がとぎれると、雨の音がしとしとと聞えてきました。
「あら、濡れてるわ。」
駒井さんは正夫の背中をなでまわしました。駒井さんの着物だって、しっとりしています。
何かちがいます、想像してた駒井さんと、ちがうんです。姉でもなく、恋人でもなく、母親では勿論なく、遠い冷い、頼りない人です。
正夫は立上って、硝子戸を閉めました。
十一時前頃だったでしょうか、正夫と駒井さんとは、へんに敵意を含んだように、つまらないトランプや花ガルタの遊びに熱中していました。そこへ、気にはしながら予期しなかったことですが、芝田さんが帰って来ました。なおびっくりした
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