寄来しただろう。」
音吉は顔を挙げたが、すぐに眼を外らして、遠い山の方を見やった。
「おたか[#「たか」に傍点]じゃねえよ。」
「嘘云うねえ。おらにはちゃっと分ってるだ。おたか[#「たか」に傍点]が工場に行く時から、お前は約束しただろう。……あいつ、まだお前を引張ろうというんだな。太え女《あま》っちょだ。あんな者にかかり合っちゃあ、お前のためになんねえぞ。」
「おら何もおたか[#「たか」に傍点]をどうってんじゃねえが……。」
「馬鹿云うねえ。もう村の者あみんな知ってるだぞ。おら一人知らねえとでも思ってるんか。……なあお前、出来たこたあ仕方がねえが、町せえ行ったなあ仕合せだ、あんな図々しい女っちょなんざあ、これきりふっつり思い切ってしまうがええだ。他に立派な娘っ子が、村にいくらもいるだ。」
「おらおたか[#「たか」に傍点]のことどうこうって云うんじゃねえよ。町せえ行って少し儲けて来てえばかりだ。」
「だがの、お前が行っちまったら、後はどうなるだ。男手はおら一人きりじゃねえか。よく考えてみろ。」
「じきに戻ってくるだ。うんと稼ぎためての、お前にも楽させるだ。」
「おら楽なんぞしたくねえ。
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