遊びごととも言えたでしょう。それは、少年の仲に見らるるもののようでもありましたし、または老人の仲に見らるるもののようでもありました。
 直吉の思い出のなかに、執拗に繰り返し浮んでくるのは、次のようなことでした。
 彼が彼女の肩に頭をもたせかけていますと、香油をぬりこんだ彼の長髪を、彼女は静かに撫でてくれ、いつまでも撫でてくれました。それからこんどは、彼女が彼の肩に頭をもたせかけますと、女には少しく荒らすぎるその髪を、彼はごく静かに撫でてやりました。
 彼女は彼の耳朶を指先でもてあそぶのが好きでした。彼は擽ったいのを我慢しました。が彼女の方は、彼が彼女の耳朶にさわるのを、容易くは許しませんでした。
 二人寄り添ったまま、彼女は遠く宙に眼をやりました。その彼女の顔を、彼は倦きずに眺めました。あまり眺めていますと、彼女は突然にっこり笑って、掌で彼の眼を覆いました。
 互に抱き合うと、彼女は彼の頸筋に顔を埋め、彼は彼女の髪に顔を埋めました。彼女はしばしば、彼の指を一本ずつきつく握りしめました。力一杯に握りしめるようでした。
 そのほかいろいろなことをしましたが、それらの愛の表現は、たいてい肉体
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