は、世間からの非難はもっともなことで、それは全く書信の気合をそぐことになるのです。それとも、世人の気合がずっと間延びしたものとなれば、話は別になるのでしょう。――そのようなことを、逓信従業員たる彼が、無関係な方面の事柄をでも批評するようにして、談じてゆきました。
もう暮れかけていましたが、空間のうちにまだ明るみがほんのりと漂っているらしい、ちょっとためらいがちな時刻でした。その時、表から台所口とは反対にそこの縁側の方へ通ずる、路地とも庭ともつかない空地に、かすかに人の気配がして、八手《やつで》と檜葉との小さな植込のそばに、ぼっと人影が現われました。たしかに蒼ざめてると思えるへんに白い顔に、眼が大きく見据えられ、首をすっと伸し、右肩を少しく落しかげんにして、襟をきっと合わせた黒っぽい着物の胸から下は、夕闇にとけこんでいて……なにか亡霊にも似た、それが、田中正子でした。
直吉は顔をあげ、坪谷は口を噤み、二人ともその方を見やりました。正子もじっと二人の方を見やりました。彼女がそこへふいにやって来ることは、近所同士のこととて不思議ではありませんでしたが、その時はなにか妙な工合で、二人ともち
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