自分の呼気で自分を中毒さして眠ろうと努めた。
 そして翌日になったが、いつまでも日の光がさして来なかった。陰欝などんよりとした曇り日らしい明るみが、窓の雨戸の隙間から忍び込んでいたけれど、いつまで待っても同じ茫とした明るみだった。私は思い切って起き上ってみた。驚いたことにはもう十時を過ぎていた。顔を洗って冷たい食事を済したが、北に窓がついてるきりの室の中には、隅々に薄暗い影が漂っていて、何かぼんやりつっ立ってるような気配だった。私はじっとしてることが出来ずに、何処という当もなく、外出しかけた。お上さんが玄関へ出て来て、どうでしたかというような眼付を見せたが、私は眼を外らして答えないで、ぷいと表に飛び出した。
 雲ともいえない靄みたいなものが、空低く一面に蔽い被さっていて、空気が重くどんよりと淀んでいた。寂しい裏通りのそこいらの影から、彼奴らがふらふらと浮び出てくるのに、最もふさわしい天気だった。私は薄ら寒いおののきを身内に感じながら、何処へ行こうかと思い惑った。
 こんな時には、酒でも飲んで気を紛らすのが一番よかった。然しそれには時間も早かったし、また恐ろしい記憶が頭に蘇ってきた。彼奴
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