窓の外の手摺に雨曝しとなって掛ってるのを、いつか見たような気がし初めてきた。わざわざ雨戸を開けて見定めるだけの勇気も、もう私には出なかった。それどころではなかった。頭の上の落掛からぶらりと死体が下ってきた。眼をやると消え失せるが、一寸でも眼を離すとまた下ってくる。私は怪しい気持になって、比較的新しい落掛をいつまでも見つめていた。するといつのまにか自分がふらふらと立上って、其処の壁に穴をあけ、麻縄で輪を拵え、机を踏台にしてぶら下る……と思っただけでぞっとして、それが却て一種の衝動となり、蜘蛛の糸ででも縛られるように、身動きが出来なくなった。少しでも身を動かしたら、私はそこにぶら下るかも知れない……と思うせいか、もうぼんやりと落掛の所から、人の下ってる無惨な姿が見えてくる。
私は堪らなくなって、いきなり室から飛び出て、階段を駆け下りていったが、さてどうしようかと思い惑ってると、お上《かみ》さんのでっぷりした没表情な顔付が、玄関わきの障子の腰硝子から覗いていた。私はその方へ歩み寄って、前後の考えもなく尋ねかけた。
「あの室は……私の室は……何か変なことがありはしませんか。」
私の様子が変
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