は聞き咎めた。
「俺を酔っ払いだと云ったな。どこが酔っ払ってるんだ? さあ云ってみろ。車掌のくせに人を何だと思ってる! 馬鹿っ! どこが酔っ払ってるか、はっきり云ってみろ。」
そして彼は足をとんとんと踏み鳴らした。
「静にして貰いましょう、仕事の邪魔になるから。」木原藤次はつとめて落付けた調子で云った。「不服があるなら監督を呼びますから、監督に談じて下さい。」
「なに、監督を呼ぶ! 呼んでこい。さあいつでも呼んでこい。貴様の名前は何と云うんだ? このままじゃあ承知しないぞ。」
それから彼がまだ弁舌り立てようとするのを、木原藤次は怒りを押えた眼付でじっと眺めた。このまま黙っていれば、自分の不甲斐なさを衆人の前に曝すことになるし、喧嘩をすれば、事が面倒になって結局損をするばかりだし、うっかり云い出した通りに、監督を呼ぶとすれば、車掌としての自分の無能を認められることになるし、はてどうしたものかと思い惑った。所が偶然、鬱憤を晴すべき機会がやってきた。
洋服の男は。監督という言葉を聞いて、いきり立って肩を聳かしたが、それから俄に口を噤んで、その口許にせせら笑いを浮べ、片手でポケットを探っ
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