罪しろ、すぐに謝罪しろ。」
「まあ静になさい。」と巡査は言った。
「いやこのままで済せるものか。人の頭を殴っておいて、一言の挨拶もなしに、それでよいかどうか、考えてみ給え。君で分らなければ、警察に同行するまでのことだ。……おい、何とか云ってみろ。何で黙りこくってるんだ。」
そして彼は、高倉玄蔵の方へつめ寄って行った。
高倉玄蔵は、車掌の逃亡をうまく云いくるめられて、太い眉根をぴくぴくさしていたが、今相手につめ寄って来られると、我を忘れてまた右手を振上げた。それを巡査に支えられた瞬間、彼は左手を差伸して、野口昌作の襟に手先がかかるや否や、ぱっと足払いにいった。それが見事にきまって、野口昌作は仰向にひっくり返った。
「暴行をするな。」と巡査は叫んだ。
「何が暴行だ?」と高倉玄蔵は鸚鵡返しにした。「こんな奴はひどく懲らしめておくが至当だ。こういう軽薄な屁理屈屋がのさばるから、世の中が害される。貴様まで此奴に瞞着されて、それで警官が務まると思っとるのか。顔を洗って出直して来い。」
巡査はぐいと彼の手首を捉えた。
「暴行を働いた上に暴言を吐くのか。よし、本署まで同行するから、一緒に来い。」
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