って、コーヒー、時にはコニャック、それからアイス・ウォーター……なんかをのんで、暫くして彼が立上ると、マダムはいやにつつましい様子で表まで送って出て、そこで二三言立話をして、それから彼女はすましきった顔付で戻ってくる……ばかにしてるじゃないか、というのである。――それが丁度マダムの不在の時で、サチ子が向うの隅でかけてるジャズのレコードがいやに騒々しい音をだし、ただでさえ光度の足りない電燈が濛々とした煙草の煙に一層薄暗くなって、大きな棕梠竹の影のボックスの中は、蓋をとった犬小屋みたいな感じだったが、そこで、彼等は声をはずませ、眼を輝かして、語りあってるのだった。そうだと主張する者は、何もかもその方へこじつけてしまい、そうでもあるまいと反対する者は、もっと確実な証拠を示せと唆かしてるかのようだった。犬小屋の中に四五羽の雀がとびこんできて、べちゃべちゃ囀ってるようなもので、喉が渇くと、サチ子を呼んでビールを求め、そのサチ子に向って、ねえそうだろうと同意を強いるのだったが、彼女はただ笑って取合わないけれど、その紅をぬった小さな唇から出る笑いは、雀の喧騒の中のカナリヤの声ほどの響きも立てなかった
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