といった感じに似ていた。彼女に対する気持は、小母さんというのとはまるでちがっていたが、話の調子は自然とそういう風になっていった。地肌の浅黒い洋装の娘が――サチ子が――帰ってくると、彼女は思い出したように立上って、甘いカクテルを拵えてくれた。それから、蓄音器のそばに連れていって、レコードを幾枚も取出し、好きなのをかけてあげようと云った。然しレコードのことなんか、岸本には更に分らなかった。三人連れの大学生がはいって来たので、岸本は勘定をして帰ろうとしたが、彼女はどうしても受取らないで、この次から頂くことにすると云うのだった。そうした彼女が、岸本には、まるで「東京」と縁遠いもののように思われた。
然しその彼女も、何度か彼が行くうちには、次第に移り動いて、スタンドの上から客と応酬し、時には自分もリクールに唇をうるおして談笑する、バー・アサヒのマダムとなっていった。それと共に、岸本も洋酒の味を知るようになった。それでも岸本の心の奥には、小母さんとも云いきれず、マダムとは猶更云いきれず、それかって恋とか愛とかの対象とは更に縁遠い、何か夢の幻影みたいなものが、はっきり残っているのであった。
それ
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