いた。束髪に結ってる髪が、わざとだかどうだか縮れ加減で変に少くさっぱりしていて、額が広く、それに似合って、すっきりした鼻と引緊った口と小さく尖った※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]――どこか混血児くさい顔立と皮膚。どう見ても三十歳以上に老けていた。その、夢想とちがってる彼女の姿が却って、岸本を落付かして、岸本はすぐに名乗ってみたのだが、彼女はただ微笑んでるきりで、感情を動かした様子は更に見えなかった。
「まあこちらへいらっしゃいよ。」
彼を窓のそばの席へ導いて、自分でコーヒーを入れてきて、彼にすすめながら、真正面にじろじろ彼の様子を眺めるのだった。ちっとも嫌な視線ではなかった。彼はぽつりぽつり話しだした。こんど上京してきたことと、依田氏を訪問したこと、彼女の噂をきいたこと……それから、彼女が黙って聞いてくれてるのに力を得て、昔彼女に逢ったのを覚えてることを依田氏に話して、初恋かとからかわれたことまで云ってしまった。
「あら、そうお。」
彼女はただにこにこしてうなずいてみせるきりだった。依田氏のところみたいな反応は更になくて、ただ柔いやさしいものが彼を包んでいった。それは故郷
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