父さんの姿がそんな考え方をさせるんですから。」
「それでは二人共変なんですね。」
しげ[#「しげ」に傍点]子はそう云ってまた微笑みを洩らした。然し彼女もそれきり口を噤んで、庭の方を透し見るようにした。
東に面した庭には午後の日脚は軒に遮られて落ちてはいなかったが、それでも暑い日光の漲った空の反映を受けて、植込みの影の空気まで暑苦しく乾燥しているように思えた。木の葉がばさばさしている、植木鉢の土が乾き切っている、そして高地芝の間の飛石が如何にも白い。
「今年は暑そうですね。」と重夫がふと云い出した。
「そうねえ、六月でこんなだから。」
「今年は皆で山へ出かけようではありませんか。」
「私も何処かへ出かけたいと思っていますがね。でも同じ行くなら海の方がよくはありませんか。」
「海は頭が悪くなっていけませんよ。」
「また頭ですか。」そう云ってしげ[#「しげ」に傍点]子は眼を挙げて重夫の顔を見た。「お前さんはいつも頭のことばかり心配していますね。」
「それは僕等のような若い時は、頭が一番大切なんですから。」
その時二階の梯子段に足音がした。父が下りて来るのであった。それをきくと二人共妙に
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