、一服する隙もありませんからね。」
「それは骨も折れるだろうが、そう休んでいてはみよ[#「みよ」に傍点]子が困りはしないかね。」
「なあに、大丈夫でさあ。その代りよく可愛がってやりますんだ。あれも不憫な奴ですからね。よく膝の上に抱っこして子守唄をうたってやりますよ。するとね、眠ろうとはしないで、噴き出してしまうんです。私もね、一緒になって笑うんです。何しろもう十二になるんですからね。然し悧口ですよ。私が造兵から帰って来て寝ようとすると、肩を揉んでくれますよ。」
「然しよく怒鳴りつけることもあるんだろう。」
「それはね、ただ酒がねえ時でさあ。然し不思議なもんですよ。酒が無くって怒鳴り散らすと、丁度酒を飲んだような気持ちになりますんだ。心が煮えくり返るようでね。そんな時に私は膝に抱っこしてやるんですがね、そして子守唄をうたうんです。すると大抵は二人で笑い出すんですがね。どうかすると奴《やっこ》さん泣き出しちまうんです。私もね、つい鼻を啜るんですがね。……いや火を燃すに限るですよ。泣くなんて余りいい気持ちのものじゃねえ。どうも泣くのはいけねえや。私はこう思いますがね、人間てものは始終火を燃し
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