て真赤な火が渦巻いてるんだ。あんな威勢のいいものはありゃしねえや。」そして徳蔵は一寸首を傾げて考えたが、また云い続けた。「旦那は夕焼のした晩に酔っぱらったことがあるんですか。火事という奴はあれと丸で同じでさあ。あたりのものがぐるぐる廻ってるんだ。それがぱっと真赤になってるんだ。空に真赤な夕焼がしているんですぜ。空も地面も真赤になって渦巻いてるんだ。そして一度に燃え上ってる。どうすることも出来やしねえ。腕っ節の続く限り何にでもぶつかってゆくんだ。戦争なんかもあんなものかも知れねえ。」
徳蔵は一人で饒舌ってしまうと、急に口を噤んで、先刻出されたままの茶をぐっと飲み干した。それから彼はふと煽風器の方へ眼を留めた。
「なるほどいい風が来ますね。だが、どうも生温《なまあったか》い風ですね旦那。この風を冷たくする工夫はつかねえものですかね。」
「そうだね。」
田原さんは気の無さそうな返事をした。そして紙巻煙草を一本取ってそれに火をつけ、また一本徳蔵にも取ってやった。
「今日は造兵の方は休みなのか。」と田原さんは別のことを云った。
「なに一寸骨休めですよ。あの仕事も随分骨が折れますよ。働きづめで
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