し、翌朝、からりと晴れた陽光を見ると、すべては他愛なく消え去ってしまった。局面は一変して、現実の事態のみが残った。
宗吉は村での知能ある強力者として、朝から飛び廻り、警察の方とも連絡を取っていた。私は彼からだいたいの事情を聞いた。
花子はその夕方、焼酎をひどく飲んで、ふらふらに酔っ払っていたそうである。そしてぶらりと外に出たきりだった。死体に外傷はなく、水も大して飲んでおらず、酩酊のあまり川に落ちて、心臓[#「心臓」は底本では「必臓」]が痲痺したものと、推定された。驚かれるのは、妊娠してることだった。
彼女が何故に杉の沼のほとりまで行ったか、それが疑問だった。ところが、噂の通り彼女には三人の情人があった。その三人とも、その日暮に河の堤防まで来てくれと彼女から呼び出しを受けたと、警察で、同じような申し立てをした。そして三人とも行かず、八幡様のお祭りで飲み騒ぎ、アリバイの証人は沢山あった。――後で、三人は村人の笑い話の種となった。
翌日の夜、私のところへ、宗吉が町の警官を同道してきた。私が花子と何の関係もなかったことを弁護するのに大骨折りをしたと、宗吉は警官の前で明けすけに話した。
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