三人立ち合いの上で、花子の小さな柳甲李は開かれた。意外なほど粗末な衣類ばかりだった。ぺらぺらの金紗の着物が最上等で、ふだん着同様な着物や帯や長襦袢ばかりだ。ただ、上等の帯締と絹のストッキングが幾つもあった。古めかしい金襴の袋にはいってる鬼子母神様の御守札があった。――後で分ったことだが、彼女は幼時ひどく病弱で、亡祖母は彼女のために鬼子母神をたいへん信仰して、守札はその祖母から貰ったものだった。
私のところにあった柳甲李のことは、どこからともなく村人たちの耳に伝わり、二様の解釈が下されたらしい。一つは、私と花子と何かの関係があったらしいという意見であり、一つは、出奔の荷物なら私によりも三人の情人の誰かに預ける方がよかったろうという意見である。その両方に対して共に宗吉はひどく腹を立て、私の前でも罵った。
柳甲李の秘密が明るみに出てから、私は花子の事件に興味を失ってしまった。と同時に、私は別のことを感じた。私自身はやはり村人にとってはあくまでもよそ者であったこと、この田舎にはやはり古い伝統が根深く残ってること、私の神経はちと田園向きでなく繊細すぎること、などである。
私をかすめた死
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