坐って、膝《ひざ》の上に両手を握りしめて、身がまえをしました。
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だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
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まわりのものまでみんな息をつめました。二人はじっとにらめっこをして、どちらも笑い出しません。「鬼瓦《おにがわら》」はほんとに鬼瓦のような顔つきをしてみせましたが、見馴《みな》れない子供はびくともしませんでした。そしてるうちに、ふいに見馴れない子供の鼻がぴくぴく動き出しました。が、「鬼瓦」の方も笑い出しません。するとこんどは、ぴくぴく動き出した鼻が、ぬーっと長く伸びだしました。見ていたものはびっくりしました。が、「鬼瓦」はまだ笑い出しません。するとこんどは、長く伸び出た鼻が、「鬼瓦」の鼻先までやってきて、ゆらゆらふらふらとおかしな恰好《かっこう》で踊りだしました。
とうとうたまらなくなって、「鬼瓦」はぷーっとふきだしました。みんなはわっとはやし立てました。がふしぎなことには、見馴れない子供の鼻は、勝つが早いかすっと引っ込んで、もとの通りになってしまいました。
「ずるいや、ずるいや。鼻をあんなに伸ばすなんて、ずるいや」
「鬼瓦」はそういってつめ寄ってきました。みんなもそれに味方しました。
「鼻を伸ばしといて踊らせるのはずるい」
見馴れない子供は、ただにこにこ笑っていましたが、みんなからずるいずるいとあまりいわれますと、それじゃも一度やり直そうといいました。みんなも賛成しました。
「やり直そう、初めから……。鼻を伸ばすのはなしだよ」
そしてまたみんなは一しょに、「だるまさん、だるまさん」を始めました。ところが、最初に笑い出したものから順々に一人ぬけ二人ぬけしてるうちに、いつのまにか、見馴《みな》れない子供の姿が消えてしまったのです。
「おや、あの子供はどこへいったろう」
「いない。消えちゃった」
みんなはきょとんとしてしまいました。いくら探してもどこにも見えません。
「わははははは……」
頭の上で笑い声がしましたので、見上げてみると、空いっぱいの大きな顔が笑っています。かと思うまに、すぐに消えてしまって、青々とうち晴れた大空ばかりになりました。
みんなはぼんやり空を見上げていましたが、次にはおかしくなって、くくくくっと、それからあはははっと、声をそろえて笑いだしました。
三
子供たちはおもしろがって、その話を村の大人《おとな》たちにしました。大人たちの方では、そんなことがあるものかと思って、初めは本当にしませんでしたが、子供たちが皆本当だといいますし、見馴《みな》れない子供が出て消えたことなどを聞くと、そのままうっちゃってもおかれないと思い始めました。なぜなら、それを悪い鬼《おに》のせいだと考えたのです。
「それは悪い鬼にちがいない。悪い鬼がやって来て、子供をさらってゆくつもりで、初めはまずそんなふうに、子供をだまかしてるんだ」
「そんなことはないよ。もし鬼だったら、おもしろい鬼だよ」
そう子供たちはいい張りましたが、大人たちはききませんでした。そして鬼退治《おにたいじ》を始めることに相談をきめました。
子供たちは悲しくなりました。けれど、大人たちがむりにいうものですから、仕方《しかた》なしに例のところへ行って、「だるまさん」を始めました。
大人たちは、そうして子供たちを遊ばしといて、自分たちの方は、まだ鉄砲のない頃でしたから、弓や石投機械《いしなげきかい》や刀や棒など、てんでに何か武器を持って、森の木の陰や村の家の陰なんかに隠れて、今に鬼が出て来たら、打ち殺すかしばりあげるかしてやろうと、じっと待ちかまえました。
子供たちは、いやでいやでたまりませんでした。あんなおもしろい鬼を悪い鬼だなどと言って大人たちがそれを待ち伏《ぶ》せしているのが、気になってしようがありませんでした。それでも大人《おとな》たちのいいつけですから、どうすることも出来ないで、心ならずもにらめっこをしました。だけど、もう笑うものなんかあまりなくて、長くにらめっこをしていると、笑うかわりに泣き出すものさえありました。
するうちに、だんだん子供たちはやけになってきました。みんな立ち上がって、輪になってぐるぐる廻りながら、大声にどなりました。
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だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
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うむ……と気張《きば》って、立ち止まってにらめっこをします。が誰も笑い出すものがありません。でまたぐるぐる踊り廻って、「だるまさん、だるまさん」をくり返します。そのちょうしが次第《しだい》に早くなって、もう踊りっこをしているのか、にらめっこをしてい
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