るのかわからなくなって、夢中にぐるぐる廻りました。
 と、突然、わはははははと大きな笑い声がしました。はっと思って見上げると、空いっぱいの大きな顔が笑っています。かと思うまに消えてしまって、しいんとなりました。とこんどは、はははははと大ぜいの笑い声が聞こえました。
 大人《おとな》たちが武器を手にしたまま、ぼんやり空を見上げて、声を揃《そろ》えて笑っているのです。
 大人たちは初め、その空いっぱいの顔の鬼《おに》を退治《たいじ》するつもりでしたが、子供たちのにらめっこや踊りっこがあまりおもしろいので、それに気をとられているうちに、いきなり空いっぱいの顔が出て来て大笑いをし、すぐに消えていって、まっさおな大空とうつくしい日の光とだけになってしまったものですから、ぽかーんとして、思わず笑ってしまったのです。
 それを見ると、子供たちもわーっと笑い出しました。

 その後、空で笑うのはきっと天狗《てんぐ》だろうと誰かがいい出しました。そしてそれを天狗笑《てんぐわらい》と皆はいうようになりました。夏の晴れた日なんか、野原に出て、「だるまさん、だるまさん」をやりながら、日の光のぎらぎらした青い空を見てると、空いっぱいの大きな顔でわはははははと、天狗笑がすることがあるそうです。



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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