、二月の末に近づくにつれて、馬の腹がだんだん大きくなってきました。甚兵衛はびっくりして、その大きな腹を撫《な》でてやったり、馬の病気に利《き》くという山奥の隈笹《くまざさ》を食べさせたりしましたが、何のかいもありませんでした。仲間の馬方達《うまかたたち》に見せても、どうしたのか誰にもわかりませんでした。甚兵衛は大層《たいそう》心配しましたが、どうにも仕方《しかた》ありません。これはきっと腹の中の悪魔《あくま》の仕業《しわざ》だろうとは思いましたが、二月の末までと約束したのですから、今更《いまさら》取返しはつきませんでした。それに、馬はただ腹が大きくなったばかりで、体にも元気にも少しも衰《おとろ》えは見えませんでした。
「まあいいや、二月の末まで待ってみよう。害《がい》はしないとあいつは約束したんだから、たいてい大丈夫《だいじょうぶ》だろう」
 そして甚兵衛は、二月の末になるのを待ち焦《こ》がれました。馬は相変わらず元気で、毎日材木の荷車をひきました。

      三

 いよいよ二月の末になりますと、甚兵衛《じんべえ》はほっと安心して、その日一日馬を休ませ、せっかくのことだから今晩ま
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