で悪魔《あくま》に宿を貸そうと思って、そのまま馬を小屋につないでおき、うまいごちそうを食べさして、自分は早くから寝てしまいました。
するとその翌日、三月一日の夜明け頃、馬小屋で馬がひどく暴れてる音がしたので、甚兵衛はびっくりして起き上がりました。行ってみますと、馬は歯をくいしばって、時々苦しそうに跳ね廻っています。いくらそれを静めようとしても、どうしても静まりません。甚兵衛は訳がわからなくて、まごまごするばかりでした。
「甚兵衛さん、甚兵衛さん」
どこからか自分を呼ぶかすかな声がしましたので、甚兵衛はびっくりしてあたりを見廻しましたが、誰もいませんでした。するとまたどこからか、かすかな声がしました。
「甚兵衛さん、甚兵衛さん」
その声がどうやら、馬の口から出てくるようでしたから、甚兵衛は馬の口に耳をあててみました。
「甚兵衛さん、甚兵衛さん」
その声で甚兵衛は急に思い出しました。
「やあ、お前は悪魔の子だな。何だってまだ馬の腹の中にまごまごしてるんだい。もう三月一日だぜ。約束の期限はきれたから、早く出て来いよ」
すると馬の口の奥から、悪魔《あくま》の子が言いました。
「実は困
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