素敵《すてき》なことになったと、甚兵衛はひどく喜んで、上等のかいばや麦や米や豆などを、毎日馬にごちそうしてやりました。馬の黒い毛並みはなおつやつやとしてきて、以前にも増して立派になりました。
さあそうなると、村でも町でも大評判です。甚兵衛の馬が山のように材木を積んだ荷車をひいて、山坂を自由自在に駆け通して、五里の道を日に三度も往復するのを、皆眼を丸くして眺めました。中には甚兵衛《じんべえ》に向かって、どうして馬がそう強くなったかとか、いくらでも金を出すから馬を売ってくれないかとか、いろんなことを言い出す者もありましたが、甚兵衛はただ笑って取り合いませんでした。
「天下一《てんかいち》の黒馬だ。はいどうどう……」と甚兵衛は得意げに馬の手綱《たずな》をさばきました。
そして元来なまけ者ののんきな甚兵衛も、馬を走らせるのがおもしろくなって、毎日材木を運びましたので、大変お金をもうけました。雪がひどく降る日なんかは、さすがに休もうと思いましたが、馬の方で休むことを承知しません。朝早くから馬小屋の中で跳ね上がったりいなないたりして、どんな天気の悪い日にも勇しく出かけて行きました。
ところが
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