から、宿を貸してあげよう。そのかわりに約束を守って、二月の末までだぞ」と甚兵衛《じんべえ》は言いました。
悪魔《あくま》の子は大層《たいそう》喜びました。甚兵衛が馬の口を開けてやると、いきなりぴょんと飛び込んで、腹の中にはいってしまいました。それを見て甚兵衛は、あはははと声高《こわだか》に笑い出しました。
ところが驚いたことには、甚兵衛が馬に一鞭《ひとむち》あてて帰りかけると、その馬の足の早いこと、まるで宙を飛ぶように進んで行きます。甚兵衛はとても追っつかないので、馬車《ばしゃ》の上に飛び乗りますと、黒馬はひひんと高くいなないて、またたくまに家まで駆け戻りました。
二
その翌日から大変です。悪魔の子が言った通りに、甚兵衛の黒馬は十倍の力になって、材木を山のように積んだ荷車を、坂道も何も構いなく、がらがらと駆け通しにひいて行きます。町まで五里の道を往復するのに、今まで一日かかっていましたのに、その日からはいくらたくさん材木を積んでも、三度ぐらいは平気で往復するようになりました。甚兵衛は歩いてはとても追っつけませんので、往《い》きも帰りも車の上に座り通しでした。これは
前へ
次へ
全14ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング