とはぐれてしまって、仕方《しかた》なしにその崖《がけ》下のくさむらに隠れているのでした。何しろ尻尾の先にひどい傷を受けたものですから、魔法の力を失ってしまって、遠い山奥に帰ることも出来ないし、夜になって食物を探しに出かけると、多くの犬に吠《ほ》え立てられるし、寒い晩には尻尾の傷跡《きずあと》が痛んでくるし、どうにも仕方《しかた》がなくなったのです。そして一週間の間、飢えと寒さと痛みとに苦しめられて、崖《がけ》下で震えている所へ、甚兵衛《じんべえ》が通りかかったのを見て、たまらなくなって飛び出したのです。
「お願いですから救って下さい」と悪魔《あくま》の子は地面に頭をすりつけて頼みました。
 なるほどよく見ると、体はやせ細り、尻尾《しっぽ》の先には生々《なまなま》しい傷があって、寒さにぶるぶる震えています。
「俺《おれ》はまだ悪魔を助けたことがないが、どうすればいいのか」と甚兵衛はたずねました。
「なに造作《ぞうさ》もないことです」と悪魔の子は言いました。「あなたの馬は実に立派で、まっ黒な毛並みがつやつやしてるから、私は一目《ひとめ》で好きになってしまいました。それで、その馬の腹をしばら
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