。――あの人はいつも明るいのが好きだった。カーテンをすっかりあけて、窓に日の光がさすのが好きだった。夜分は電燈の光が薄暗いと云った。
あたし達のような商売の女には、愛ということと馴染ということとが、大抵の場合同じだった。三度逢えば三度分の愛がもてたし、十度逢えば十度分の愛がもてた。だから、あの人が度重ねてしげしげやってくるにつれて、あたしはそれだけの愛を持ったかも知れない。けれど……そればかりではなかったかも知れない。初めのうちは、あたしはあの人のことをのろけ話の種にしたこともあったが、後になると、あの人のことを少しも口に出さないようにした。口に出せなかった。
普通の色恋とはちがった別なものがあった。あの人にも、何だか足りないところと多すぎるところとがあった。気持がひどく内気で臆病なようだったが、考え方がごく大胆で厚かましいようだった。世の中のことにうとくてぽかんとしてるようだったが、人情の深いところまで見通してるようだった。機嫌がよくてにこにこしてる時もあれば、口を利くのもうるさいといった風な時もあった。身装《みなり》はさほどよくなかったが、お金のことには至って無頓着だった。一体
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