夜が明けて、番頭《ばんとう》が蔵の戸を明けに来ました時、五右衛門《ごえもん》は泣き顔をしながらも、捕《つかま》っては大変ですから、いきなり中から飛び出して、番頭があっけに取られてるまに、一生懸命逃げ出してきました。
 はいるだけはいってもだめだ、と五右衛門は考えました。それで、夜になりますと、橋の上に立って、手をポンポンポンと三つ拍《たた》きました。例のお爺《じい》さんが、どこからかひょっこり出て来ました。五右衛門は頼みました。
「あの術はだめです。今度は、どんな隙間からでも家の中にはいってまた出られる術を教えて下さい」
「それは駄目《だめ》だ」とお爺さんは答えました。「出るとかはいるとか、一つの術しか教えられない。それにまた、今度新たな術を教わると、前の術はもう出来なくなるから、よく考えて何なりと一つを望むがよい」
「それでは、どんな隙間《すきま》からでも家の外へ出られる術を教えてください」
 お爺《じい》さんは承知して、その術を教えました。

      三

 五右衛門《ごえもん》はあれかこれかと考えた末に、ふといいことを思いつきました。ある大きな宿屋へ行って、すました顔で泊まり
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