って、年とってる両親に今更子供のことも頼みかねますし、私としてはトキエと結婚する気なんか少しもなかったのです。考えあぐんでは、彼女の眼にまでつくようになったらしいんです……。尋ねられて、私はそのことを打明けました。
「いいわ、あたしがいいようにしとくから……。」
彼女は事もなげに云って、微笑みました。そして名古屋の母とどういう風に話をつけたものか、子供は彼女の籍に入れることにきまりました。それについて、怨みがましいことも云わないで、後々の約束もなにも持出しませんでした。
――一体、どうするつもりかしら?
そういう疑念が、私の胸に起りました。いえ、それは前からあったのですが、その頃から初めてはっきりした形になってきた、という方が本当でしょう。
皺のよった赤いぶよぶよした、そして頭の毛だけが妙にこい……その、赤ん坊を、私は不思議そうに眺めました。不思議なだけじゃなく、不気味な気さえしました。がそれは、生れた時弱々しかったに拘らず、大して病気もせずに、育っていきました。母親の乳がよいのだそうでした。それでも彼女はのんきで、髪結に行く時なんか、子供は小女に任せたきりで、牛乳を一本買って
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