肉体
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)妖《あや》しい

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説3[#「3」はローマ数字、1−13−23]
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「なんだか……憂欝そうですね。」
 さりげなく云われたそういう言葉に、私はふっと、白けきった気持になって、酒の酔もさめて、自分の顔付が頭の中に映ってくることがあります……。私が鏡を見るのは、髯をそる時、髪をなでつける時、まあそんなものですが、それよりももっとはっきりした鏡が頭の中にあって、それに自分の顔付が映ってきます。――頬は酒の酔に赤くほてっているのに、額に薄暗い影がかかっていて、眼尻にいくつも小皺がより、厚い唇がだらしなく開き、そして眼付が、物珍らしそうにきょろきょろあたりを見廻したり、またぼんやり曇ったりします。その全体が……そう……やはり憂欝そうですね。……以前はこんなじゃありませんでした。ついこの頃のことです。
 負けた……一言で云えばそういう気持です。しかも、それがばかげていて、どう
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