と私が云うとしたら、ええいいわ、と彼女は答えるでしょうし、一緒に死のうか、と私が云うとしたら、ええいいわ、と彼女は答えるでしょうし、而も、理由もきかず、涙も流さないでしょう……そうして彼女に対して、私は嫉妬に似た苛立ちを覚えていたのです。たとえ子供を抱かしたところで、彼女にはしっくりした母性なんか出てこないでしょう……。
 私の説明をきくと、小野君は、怒った眼付で私を見据えました。
「そんなら、君達はどういう気持で生きているんだ。芸者をやめさして、家を一軒もたして、子供まで拵えて、そしてそんな……まるで……。」
 そうです、まるで動物みたいです。愛とか……生活とか……そんなことは考えもしませんでした。非難は私に向けられるのが当然かも知れません。けれど、私は彼女を愛してはいました。彼女の出産前後も、殆んど貞節を守り、いつまでも、彼女に倦きるということはなさそうでした。そしてまた、彼女の生活についてこそ、これからどうするつもりかなどと、不安をも覚えたのです。ただ、それらのことを、はっきり、意識的に、指導的に、考えなかっただけのことです。いつでも、どうにでもなるだけの、時間と金と、安楽な地位
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