をつきました。
「どうも……素敵だなあ……むずかしい。」
そして赤ん坊の方に歩み寄って、大きな指先で、頬辺をつっつきました。赤ん坊の顔は、くしゃくしゃになって、それから波が消えるように静まり返って、大きな黒い眼をぱっちり開きました。
「あら、起っきしたの。」
トキエが笑いかけて、小野君の絵のことなんかお構いなしに、抱き上げてしまいました。そして真赤な布団の代りに、やはり真赤なちゃんちゃんこにくるんで、乳を含ませているのを、小野君も私も、ぼんやり眺めました。
「だめだなあ……奥さんは。」
「だって、あまり長いんですもの。……ねえ、可哀そうね。」
子供にそう呼びかけておいて、彼女は笑っていました。
その日はそのままきりあげて、翌日も一度小野君はやって来ました。私が行った時は、もう絵は終りかけていました。小野君のうちには、前日とちがって、熱っぽい真剣さが見えていました。眼付が鋭く……恐らく前日来何か頭の中で模索し続けたのでしょう……顔付もとげとげしているようでした。最後に筆を投じて、じっと画面を見つめて、それから不満そうに口を尖らしました。画面には荒っぽいタッチで、子供の顔だけが書か
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