くるりと見廻した。それから、其処に置かれてる炬燵によりかかるようにして坐った。
「まだ起きてたのか。」と啓介は云った。声が自然に震えた。
「用があるんだ。」と木下は答えた。
 啓介は黙っていた。
「君は、」と木下は云った、「僕のやったことを卑劣だと思ってるね。」
 啓介は静に首を振った。
「つまらないお世辞は止し給え。僕自身も卑劣だと知ってる。然し……僕は君達の心が知りたいんだ。」
「おい、低い声で云ってくれ給え。」と啓介は注意した。調子はもう落付いていた。「二人共眠ってるから。」
 暫く沈黙が続いた。
「僕は今のうちに、解決しておきたいんだ。」と木下は云った。「中途半端な状態は堪えられない、然し病気の君と争うつもりではない。ただ君の答えがききたいんだ。」
「何の答えが?」
「どういう解決を望んでるか……。」
「解決の鍵は信子の心が握ってる。」
「然し君にも何かの希望はあるだろう。」
「ない。」
 暫く沈黙が続いた。
「では僕は君に尋ねる。一々本当の所を答え給え。」
「うむ。僕はごまかしはしないつもりだ。」
「もし信子さんが、僕に一生を任せると云ったら、君はそれでもいいのか。」
「いい
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