していらっしゃるのでしょう。いえ、そうですわ、そうですわ。岡部とあなたとは、私を品物か何かのようにやり取りしていらっしゃるのです。」
木下は組んでいた両腕を振りほどいた。そして両の拳を握りしめながら、信子を見つめた。それから眼を閉じた。身体を震わしていた。また眼を開くと、急に大きく息をついた。彼は云った。
「あなたは私を軽蔑していますね。いや私の心を踏み蹂っています。品物か何かのようにやり取りしてるとは……余りの言葉です。あなたこそ、私と岡部君との間を飛び廻ってるじゃありませんか。然し私はあなたと議論したくはない。私の愛を信じなけりゃ信じないでいいです。私を軽蔑なさるがいいです、……岡部も私を軽蔑してる。魔睡から覚めてからは、何を云っても平気で澄し込んでいる。私の友情を、私の心を、高い所から見下すようにして落付き払っている。……軽蔑するならするがいいさ。私は軽蔑されるに適当だろう!……あなたも軽蔑なさるがいい。然し私は、そんなことに参ってしまいはしない。解決するまでは、あくまでもぶっつかっていってやる。その覚悟でいらっしゃい。私の心を踏み蹂っておいて、よくも平気で……。」
彼は終り
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