処に在るんです? 私はそれが知りたい。岡部君の容態の見極めがつかなくて苦しさの余り、一寸私に縋りついて来たばかりだ、そんなことを私はもうあなたに云わせはしません。私は岡部君に、私達は愛しているとはっきり云いました。岡部君も、君達は互に愛し合ってくれと云いました。熱に浮かされてたのではありません。何でもはっきり知っている、と岡部君は私に言明しました。今となっては、あなたが自分で自分を解決するばかりです。それで凡てが決します。私は岡部君と争おうとは思わない。病人と争おうとは思わない。然しこのままの状態でいることは出来ません。あなたの一部分だけを、憐れみの情から恵んでほしくはありません。凡てを得るか凡てを失うかです。そして周囲の事情は、もう猶予を許しません。岡部君の両親がどんな考えでいられるか、あなたにも分るでしょう。岡部君のお母さんが云われた言葉の意味は、あなたにも通じてる筈です。私は落付いてはいられない。何れかに決定しないうちは……。」
「木下さん、私は……。」
「何です? 云って下さい。私はどんなことでも期待している。覚悟しています。」
「あなた方は、私を品物か何かのように取引しようと
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