心配することはありませんよ。」と彼女は云い出した。「何にも考えないで、静にしているんですよ。木下さんの御話では、病気もそうひどくはないそうですからね。私もついていてあげます。前のことは何にも考えないがよござんすよ。ただ早く癒ることばかり考えてね。皆《みん》なでついていますからね。あなたが病気のことを聞いて、私も早く来たかったけれど、種々……ね。誰も怨んではいけませんよ。」彼女は涙ぐんでいた。「お父さんも初めは怒っていらしたけれど、……私としても、あなたが余りなことをするものだから、……でも決して放りっぱなしにしたわけではありません。あなたが家を飛び出してから、お父さんは何を云っても黙り込んでばかりいらしたし、私もしまいには黙り込んでしまって、御飯《ごはん》の時だって一口も口を利かないことがありました。苛ら苛らしたり急に沈み込んだりして……。」
「そんなことはいいじゃありませんか。」と河村は彼女を引止めた。
「でもね、心では、」と彼女は云い続けた、「みんなあなたのことを許してあげています。お父さんには私からよく云ってあげます。今日私が出かける時、お父さんはそわそわして、家の中をぐるぐる歩
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