の気持ちが分りません。じっと私の顔を見つめているかと思うと、ふいに眼をつぶって、何を云っても返事もしないことがあります。また時によると、いつまでもお饒舌をすることもありますが、それも本当のことを云ってるのか皮肉で云ってるのか分らないような調子ですもの。長く病気で寝てると、苛ら苛らしたり淋しかったりすることもありましょうが、私の方がどんなに淋しいか分りませんわ。それに私の気持ちを少しも汲んでくれないで、いじめてばかりいるんですもの。私は岡部にだけは何にも隠したり嘘をついたりしないで、いつも本当のことばかり云っていますが、それを妙に……。」
彼女は言葉を途切らして、何かを思い浮べようとする表情をした。
「病気をしてると、」と木下は云った「妙に神経質になるものです。」
信子は頭を上げて彼の顔を見た。彼はその信頼しきったような淋しい眼付の前に視線を外らして、室の中を見渡した。それから、自分のすぐ前に立てかけてある画面に眼を据えた。
「その絵はいつ頃お出来になりますの。」と信子は声の調子を変えて云った。
「いつだか私にも分りません。」
「どうして此度はそうお苦しみなさるの。」
「どうも思うよ
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