て下さいな!」
「うむ。長く寝てると僕も淋しい。」
 啓介は彼女の方に眼を向けた。そして視線を外らした彼女の横顔を眺めた。
「然し木下君が居ることは、僕にとって大きな力だ。」
 信子は黙っていた。
「僕は、」と啓介はまた云った、「木下君が側に居てくれる間は、少しも淋しくないような気がする。お前はそんな気はしない?」
 信子は黙っていた。
「例えば、木下君が外に出かけて不在だと、妙に頼りない気分に襲われてくる。然し木下君が戻ってくると、何だか安心したような心持ちになる。病気しない前は、僕の方が年齢も上だし、読んだ書物の数も多かったせいか、何かと云うと木下君は僕によりかかって来た。所がこの頃では、僕の方が向うによりかかってゆきたいような気になっている。……お前もそんな気持になることがあるだろう?」
「ええ。」と信子は答えた。
「木下君が居ないと、お前も妙に淋しい顔をしていることがあるね。」
「でも、何だか悲しくなってしまうことがあるんですもの。木下さんが居て下さると力強いような気がして……。木下さんは妙に神経質な所もあるけれど、何処かどっしりしてる所があるようですわ。物につき当っても転ばな
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