じゃないし、看護婦さんと信子と居れば充分だ。それよりも僕は却って、君の仕事の邪魔になるのが一番心苦しい。家《うち》との関係があんな風になって、信子と二人で君の所へ飛び込んで来て、半年とたたないうちにこの病気だからね。」
「そのことなら僕の方から御礼を云わなけりゃならないよ。君の叔父さんの内々の補助で、僕まで生活がいくらか楽になったんだからね。余徳の方が大きすぎる位さ。そんなことは心配しないで、早く病気を癒すことだね。」
「うむ。」
 二人が黙り込むと、看護婦は、胸部の浸布を取代える時間だと云った。そして信子の手伝いで、彼女はそれにとりかかった。
 その間に木下は、自分の室へ行って、和服と着換えて来た。湿布を取代えられた啓介は、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を深く蒲団の襟に埋めて、静に横わっていた。木下の顔を見ると、彼は云った。
「先刻の話の絵を見せてくれないか。」
「そうだね、まだ出来上ってはいないが、見せてもいい。此処に持って来よう。」
 然し彼が立ち上ろうとすると、啓介は俄にそれを止めた。
「いや、また後にしよう。何にせよ、出来上ってしまわないうちは、人に見られるのは余
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