。叢も芝生もそうだ。地面からも、物を芽ぐます力が泌み出している。陰惨な空からも、晴々とした明るい蒼空を思わする色合がどうしてもぬけない。作意《モーティフ》と出来上った結果とが背馳してしまうんだ。僕の製作は何物かに裏切られている。僕の心は何物かに裏切られてるようだ。僕は今それに苦しんでいる。」
木下は云ってしまうと、両手を頭の下にあてがって、長々とねそべった。
啓介は云った。
「それは君、君の心の内に在るものが君の製作を裏切るんだろう。」
「然し僕は、」と云って木下は一寸顔を上げた、「心の中にそんな変なものは何も持ってやしない。」
「なに、心の中には、意識しないものだって沢山あるんだ。それは兎に角、思い切って作意《モーティフ》を変えてしまったらどうだい。荒廃の中に蔵されてる芽ぐむ力といったようなものに。」
「僕もそう考えたことがある。然しそういうものはいつだって描ける。僕はあの景色を生かしてみたいんだ。それで努力してるんだ。曇った日には大抵出かけることにしてる。……君の容態が余りよくないのを放《ほう》っといて、出かけてばかりいるのを許してくれ。」
「なに構うもんか。僕はそれほど悪いん
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