それから外套の襟に※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]を埋め、没表情な顔付で、銀座の方に歩きだした。足がふらふらしてるのも気につかないらしく、憂鬱に考えこんでしまっているのだ。
そんなのは、おれは嫌いだ。
「さて、どうします。」
何の反応もなく、ぼんやり歩いているだけだった。
少しけしかけてやろうかと思ったが……いやおれにはもっと面白いことが残っていた。南さんはあとでまたすぐにつかまえることにして、そこの、掘割の橋の上で別れて、おれは駈けだした。
二
おれは山根さんの様子を見にいった。
おれの頭には、南さんと山根さんとの間の先夜の滑稽な場面が浮んでいた。おれはこの二人の童話めいたものを組立てておいたのだが、それがどうやら失敗に終ったらしい。どうもおれの腑におちないことが沢山あるようだ。――南さんの細君が死んでから、細君の伯母さんの山根さんが、南さんのところにやってきて、七つになる子供正夫の世話から、家事万端の面倒をみることになった。伯母さんといっても、まだ四十歳の未亡人で、金があって孤独で閑で、ぼんやり日を暮してた人だから、丁度適役だった。南さんが再婚する
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