せたら似合いそうな女、それが、へんにとりすまして、無言の会釈をして、南さんと向いあって腰を下した。
「あの……お手紙あげようと思ってたところですの……。」
 探るような眼付だった。その顔を、南さんはまじまじと不思議そうに眺めた。彼女はかすかに顔色をかえたが、吐きだすようなまた媚びるような調子で――「いやな人ね……。」そしてゆっくりと、「昨晩、あんまり急なんですもの……。」
 南さんは眼をそらして、一語一語考えるように云うのだった。
「すっかり酔ってたもんで、随分無理を云ったんだろうね。」
 登美子は曖昧な微笑を浮べた。
「君に許して貰おうと思って、やって来たんだよ。酔っぱらって、めちゃくちゃになってたもんだから……。だけど、君のお蔭で、ほんとに助かった気がする。」
 どうもいけない。おれは頭をかいた。南さんは少し酔ってはいるが、これじゃあなっちゃいない。ビールをのみ――よくはいる胃袋だ――思い出したように芭蕉の葉を眺め、恥しそうに顔を伏せ、煙草の吸口をやけに噛みしめ、そして云うのだった。
「何もかも云ってしまうよ。僕はほんとに、感謝してるんだ。君の方じゃあ、なんでもなかったんだろうけれ
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