り、その彼女全体が、十五貫の重みで落着きはらっていた。
マニキュアはまだ始まったばかりで、長くすみそうになく、それはおれの苦手だ。でもおれは隙つぶしに、正夫を庭に誘い出した。おれが自由に対話が出来るのは正夫とだった。
庭の隅よりに、池があった。まだ寒いせいか、緋メダカが底の方にじっとしていた。正夫はそのふちに屈んで、晴れかけてる空の雲が水にうつってるのを、じっと眺めた。それから水中をすかして見て、細い竹の先でメダカをつっついた。メダカはちょろちょろと、よろけるように泳いで、またじっと静まり返る。またつっつく。またちょろちょろと泳ぐ……。
「なぜメダカばかりなんだい。」
「メダカきり入れなかったからだよ。」
「なぜ金魚も入れなかったんだい。」
「メダカを食べちまうからだよ。メダカが一番先にはいってたんだ。」
「ずいぶん大きいのがいるね。」
「うん。大きいのはみんな兄弟で、中くらいのがみんな兄弟で、小ちゃいのがみんな兄弟だよ。」
「ほう、大勢だな。君も大勢兄弟がほしかないかい。」
「メダカみたいに大勢あったら、おかしいや。」
「一人で淋しかないかい。」
「淋しかないよ。……でも、姉さん
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